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海外の状況

研究者や実務家のご論考・レポート等を紹介させていただきます。動画も掲載します。

 

ニューヨーク州の証拠開示

  対談:カルメ・ジェームズ(ニューヨークの弁護士) VS 高野隆

   掲載日 2020年12月28日

ニューヨークの実務家に、証拠開示の実務をインタビューしました。ニューヨーク州では、検察官は起訴後15日で証拠開示をおこなわなければなりません。現在は取調べの映像も含めて、ワンドライブを利用した証拠開示がおこなわれています。

アメリカの連邦事件における証拠開示のデジタル化

執筆者: 笹倉香奈 甲南大学法学部 教授

寄稿日: 2020年12月15日

 

電子的に保管された情報(Electronically Stored Information: ESI)の刑事事件における開示は、アメリカの刑事裁判において当然のことになっています。

近年のアメリカの議論は膨大な開示データを被告人・弁護人がどのように保存し整理するか、これらにかかるコストをどうするのか、身体を拘束されている被告人への開示をどうするか、開示データの整理やマネジメントを行う専門弁護士(Coordinating Discovery Attorney)の役割についてなどという点に移っています。

 

司法省と合衆国裁判所事務総局の合同作業部会は2012年2月に「連邦刑事事件における電子的に保管された情報(ESI)の証拠開示に関する提言(Recommendations for Electronically Stored Information (ESI) Discovery Production in Federal Criminal Cases)」 を公表しています。

 

2012年の提言は、それまで指針がなかった起訴後のESIの開示についてのベストプラクティスを明らかにしたものです。どのようなフォーマットで開示が行われるべきか、どのような媒体で開示されるか(CD、DVD、サムドライブ、email添付など)、メタデータをどうするかなどについて検察官と弁護人が議論の上、決定すべきであるとされています。

 

同提言には、ESIのカテゴリとして①捜査書類(捜査報告書、監視記録、犯罪歴など)、②証人の供述(聴取報告書、以前の証言の速記録など)、③物的証拠の記録(差押物又は法科学試料、捜索の報告書など)、④第三者のESIデジタルデバイス(コンピュータ、電話、ハードドライブ、サムドライブ、CD、DVD、クラウドなど)、⑤写真や録画録音記録(犯罪現場写真、禁制物・銃・現金の写真、監視記録、秘密モニタリング記録など)、⑥第三者の記録と物(差押え、召喚、任意開示のものを含む)、⑦盗聴の情報(録音記録、速記録、裁判書類など)、⑧裁判記録(宣誓供述書、請求書その他捜索・差押えに関連する記録など)、⑨検査・鑑定、⑩専門家(報告書等)、⑪免責合意書、答弁合意書、その他のもの、⑫児童ポルノ、商業秘密等の特別に考慮が必要な開示物、⑬関連するもの(州・地域の捜査記録、併行する手続の記録など)、⑭デジタル形式で作成されていない開示物、⑮その他の情報など、幅広いものが含まれています。

 

1990年代以降にはESIの開示は行われていたようです。しかし、刑事事件についてはESIの開示に際しての明確なガイドラインがなかったことから策定されたのがこの提言だったのです。

 

さらに2015年には、連邦の刑事裁判官に対するポケットガイド(Criminal e-Discovery: A Pocket Guide for Judges) が連邦司法センターにより公表されています(最新版は2019年の第3版)。ガイドは、セキュリティを確保した上でESIの開示をクラウド上の書類閲覧プラットフォームにアップロードし、被告人、弁護人、捜査官、専門家がそれぞれアクセスするという方法についても言及しています。

 

ESIは年々増加しています。連邦政府は2007年には訴訟技術サービスセンター(Litigation Technology Service Center)を立ち上げ、連邦の検察庁のために書類をデジタル化してデータベースにアップロードするなどの業務を一括して行っています。FBIにも局捜査書類マネージメント・分析システム(Bureau Investigative Document Management and Analysis System)があり、書類をデジタル化して中央管理しています。

 


クラウド・ストレージを利用した証拠開示(ニューヨーク市)

執筆者: 弁護士 杉山日那子 

寄稿日: 2020年12月2日

 

私は、2020年1月から5月半ばまで、米国コロンビア大学のロースクールの授業の一環で、The Bronx Defenders(https://www.bronxdefenders.org/)の刑事弁護部門でエクスターンしました。The Bronx Defendersはニューヨーク市にある公設事務所で、ブロンクス地区の貧困層向けに、州レベルの刑事事件や入管、家事事件の代理や相談業務を行う事務所です。

 

ニューヨーク市では、2020年1月から、クラウドストレージ(マイクロソフトのOneDrive)上の、開示証拠が保存されたフォルダのアクセス権を付与するという方法で証拠開示が行われています。ニューヨーク州の刑事訴訟法には、このような証拠開示を可とも不可ともする規定はなく、事実上の運用としてこのような方法が取られているようです。

 

それに至った最大の要因は、同時期に施行された、ニューヨーク州の新たな証拠開示ルールです。平たく言うと、新たな証拠開示ルールは、早期(原則、起訴から15日以内。証拠の量が多い等の場合には15日プラス30日。)の証拠開示を検察側に義務付けています。

 

それまでは、時にハードコピー、時にDVD等、担当検察官の好みや事件の内容により開示方法はまちまちでした。しかし、新たな証拠開示ルールのもとでは、検察官は、開示用のハードコピーやDVDの準備の手間に時間を使う余裕はありません。また、それまでは、どの書類が開示済みで、どの書類が未開示なのかの管理にも手間がかかっていました。クラウド・ストレージを用いればこうした手間が省け、法の求める迅速な証拠開示を達成できるということで、ニューヨーク市の検察官はOneDrive上の証拠開示に踏み切りました。

 

弁護側はもちろん、このような証拠開示を喜んで受け止めています。

 

OneDriveを使った証拠開示について今のところ目立った批判はありません。セキュリティの問題は、検察や法律事務所がITシステムに必要な投資を行い、職員を教育すれば解決できる問題として認識されています。

 

 

私も、エクスターン中、OneDrive上の証拠開示を経験しました。

 

ニューヨーク州では今年3月に緊急事態宣言が出され、エクスターンシップはリモートで続けられました。4月半ばにドメスティック・バイオレンスの否認事件について、担当教官からDiscovery Digestの作成を指示されました。弁護方針を立てる前の下ごしらえとして、検察官から開示された証拠一切の詳細を精査し、各証拠の基本情報や弁護方針に関係しそうなポイントを簡潔にまとめる作業です。

 

担当教官は、既に、検察官から、その事件の開示証拠が保存されたOneDrive上のフォルダへのアクセス権限を付与されており、私は担当教官からアクセス権限を付与されました。事務所の自分のメールアカウントに、マイクロソフトから「OneDriveのフォルダにアクセス権が付与されました。フォルダにアクセスするにはここをクリックしてください」といった内容のメールが来ました。リンク先に飛んでメールアドレスやパスワードを入力してフォルダにアクセスすると、警察内部のケースマネジメントシステムへの入力情報(クライアントの供述内容を含む。)、前科・前歴、被害現場の実況見分調書、担当警察官の日誌等の書類のPDFファイル、911コールの録音データ、911コールを受けて現場に直行した警察官のボディ・カメラの録画ファイル、被害状況の聴取時の警察官のボディ・カメラの録画ファイル、クライアントが警察に出頭した際の様子を記録した録画ファイル等が入っていました。

 

私の自宅のインターネット環境は、ニューヨーク市で一般的なレベルだったと思いますが、ファイルをクリックすると、PDFファイルはすぐ表示され、録音・録画ファイルも、クリックから数秒で再生が開始され、途中で途切れることもありませんでした。各ファイルをブラウザの別タブで開いて画面分割すれば、複数のファイルを突合させることもできました。証拠の精査と並行してワード上で情報をまとめていき、Discovery Digestをスムーズに作成できました。また、各ファイルをダウンロードすることも可能でした。


韓国における証拠開示のデジタル化

執筆者: 安部祥太 青山学院大学法学部 助教

寄稿日: 2020年11月28日

 

韓国でも、証拠は業者を介して高額でコピーせざるを得ず、デジタルデータが欲しいときは「弁護士か事務員が検察庁に出かけていって、書類をファイルに綴じたまま1ページずつデジカメで撮影する」という刑事司法の運用実態があり、「証拠開示のデジタル化」が求められています。そして、近年、「デジタル化」へ向けた現実的な動きが急速に生じ、日本より数歩先を進んでいます。以下の通り、(1)国会では、「デジタル化」へ向けた法案が提出されており、(2)裁判所は、自ら「デジタル化」を試しに運用し始めており、(3)法務部(日本の法務省に相当)も、刑事司法手続の電子化へ向けた法整備を予告しているためです。

 

(1)2019年に、与党議員ら38名が、「刑事訴訟等における電子文書利用などに関する法律案」を国会に提出しました。この法案は、刑事訴訟における提出書類の電子化や、電子化された記録の閲覧制度などの整備を目指すものでした。既に、2010年以降、特許訴訟や民事訴訟で、訴訟の「デジタル化」が進められています(行政訴訟の99.9%、民事訴訟の77.2%が「デジタル化」を実現しています)。法案は、これを刑事訴訟にも拡げようとするものです。しかし、国会会期満了に伴い、この法案は廃案となりました。

(2)その一方で、裁判所も、2018年に刑事訴訟の「デジタル化」計画案を発表するなど、検討を重ねてきました。そして、2020年3月、ソウル中央地方裁判所をモデル裁判所として、公判記録や証拠記録の電子データ化を試行することを決めました。この試行は、順次拡大される見込みです。

(3)法務部(日本の法務省に相当)は、2020年8月に、「刑事司法手続における電子文書利用などに関する法律案」を具体的に作成し、公表しました。法務部は、この法律案を国会に提出し、第21代国会(2020年6月から2024年5月まで)で法制化し、刑事司法手続を完全に「デジタル化」することを目指しています。

そのほか、「デジタル化」に必要となる次世代刑事司法情報システム(KICS)の構築事業も、同時に進められています。このような「デジタル化」は、対面接触を減らすことから、ポストコロナ時代における不可欠な刑事司法インフラであるという利点も共有されています。

 

このように、韓国も、日本とよく似た課題を抱えています。しかし、立法、司法、行政が積極的に改革に着手し、刑事手続の「デジタル化」を着実に進めています。韓国では、刑事手続の「デジタル化」は、もはや時間の問題と理解されているのです。

 


ドイツにおける証拠開示のデジタル化

執筆者: 斎藤司 龍谷大学法学部 教授

寄稿日: 2020年11月25日

 

ドイツでは、2017年の法改正により記録の電子化や電子化された記録の閲覧制度などを整備を前提とする明文の規定が導入されました。同改正により、2026年1月1日までにドイツの刑事手続の記録や関連制度は電子化一本とされます。

 

現在、ドイツでは、この法改正により、記録が電子化されている場合は、電子化された記録を閲覧する方法が整備されています(主にドイツ刑訴法32条f)。もっとも、記録を電子化するか否か、電子記録による記録閲覧に応じるか否かは(2026年1月1日までは)裁判所や検察の裁量とされています。

 

記録の電子化の方法の例としては、PDF化が挙げられます。弁護人は検察や裁判所に電子記録の閲覧を申請し、許可を受ければ、特定の記録閲覧サイトにアクセスすることができます(アクセスすべきURLとIDが送られます)。1回の申請につき、アクセスは30日可能です(再申請も可能です)。そこで記録を読みだして閲覧することができます。必要な記録については、ダウンロード可能です。

記録が紙媒体の場合は、これを電子化するなどして持ち帰ることも可能となっています。

 

このようにドイツでは、電子記録の導入とこれを前提とした記録閲覧制度が着実に整備されているといえます。