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アメリカの連邦事件における証拠開示のデジタル化

笹倉香奈教授より、アメリカの連邦事件における証拠開示のデジタル化についてご執筆いただきました。

ElectronicStoredInformation(ESI)という言葉で整理され、既に複数のガイドラインが作成されるなどしています。

以下に全文を掲載します。

海外の状況にも掲載しています。

 

アメリカの連邦事件における証拠開示のデジタル化

執筆者: 笹倉香奈 甲南大学法学部 教授

寄稿日: 2020年12月15日

 

電子的に保管された情報(Electronically Stored Information: ESI)の刑事事件における開示は、アメリカの刑事裁判において当然のことになっています。

近年のアメリカの議論は膨大な開示データを被告人・弁護人がどのように保存し整理するか、これらにかかるコストをどうするのか、身体を拘束されている被告人への開示をどうするか、開示データの整理やマネジメントを行う専門弁護士(Coordinating Discovery Attorney)の役割についてなどという点に移っています。

 

司法省と合衆国裁判所事務総局の合同作業部会は2012年2月に「連邦刑事事件における電子的に保管された情報(ESI)の証拠開示に関する提言(Recommendations for Electronically Stored Information (ESI) Discovery Production in Federal Criminal Cases)」 を公表しています。

 

2012年の提言は、それまで指針がなかった起訴後のESIの開示についてのベストプラクティスを明らかにしたものです。どのようなフォーマットで開示が行われるべきか、どのような媒体で開示されるか(CD、DVD、サムドライブ、email添付など)、メタデータをどうするかなどについて検察官と弁護人が議論の上、決定すべきであるとされています。

 

同提言には、ESIのカテゴリとして①捜査書類(捜査報告書、監視記録、犯罪歴など)、②証人の供述(聴取報告書、以前の証言の速記録など)、③物的証拠の記録(差押物又は法科学試料、捜索の報告書など)、④第三者のESIデジタルデバイス(コンピュータ、電話、ハードドライブ、サムドライブ、CD、DVD、クラウドなど)、⑤写真や録画録音記録(犯罪現場写真、禁制物・銃・現金の写真、監視記録、秘密モニタリング記録など)、⑥第三者の記録と物(差押え、召喚、任意開示のものを含む)、⑦盗聴の情報(録音記録、速記録、裁判書類など)、⑧裁判記録(宣誓供述書、請求書その他捜索・差押えに関連する記録など)、⑨検査・鑑定、⑩専門家(報告書等)、⑪免責合意書、答弁合意書、その他のもの、⑫児童ポルノ、商業秘密等の特別に考慮が必要な開示物、⑬関連するもの(州・地域の捜査記録、併行する手続の記録など)、⑭デジタル形式で作成されていない開示物、⑮その他の情報など、幅広いものが含まれています。

 

1990年代以降にはESIの開示は行われていたようです。しかし、刑事事件についてはESIの開示に際しての明確なガイドラインがなかったことから策定されたのがこの提言だったのです。

 

さらに2015年には、連邦の刑事裁判官に対するポケットガイド(Criminal e-Discovery: A Pocket Guide for Judges) が連邦司法センターにより公表されています(最新版は2019年の第3版)。ガイドは、セキュリティを確保した上でESIの開示をクラウド上の書類閲覧プラットフォームにアップロードし、被告人、弁護人、捜査官、専門家がそれぞれアクセスするという方法についても言及しています。

 

ESIは年々増加しています。連邦政府は2007年には訴訟技術サービスセンター(Litigation Technology Service Center)を立ち上げ、連邦の検察庁のために書類をデジタル化しデータベースにアップロードするなどの業務を一括して行っています。FBIにも局捜査書類マネージメント・分析システム(Bureau Investigative Document Management and Analysis System)があり、書類をデジタル化して中央管理しています。